カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊



翌朝出発の時になって、ハイコと船頭のヨシたちがまた言い争っている。
ハイコは、これからバタンダ島(Batanta)へ船を回せと言っているが、
彼らはオイルが欠乏してきたから行けない、ソーロンに帰ると言う。

欲望、一抹の不安 そして、ハイコの魅力

私が見たところ、まだ予備のポリタンクには相当量のオイルがあるように見受けられたが、恐らく彼らはハイコのハードスケジュールに恐れをなしたのだと思う。ヨシは私には片目でウィンクして見せたところをみると、まず、間違いなさそうだ。ハイコもしぶしぶ同意せざるを得ず、ひとまずソーロンに帰ることになった。

帰りは思ったより早く、5時間ほどで港に帰ることができた。そこで、今度はまた新しい船頭を雇って、バタンタ島へ行くことになった。

■アリの大群に悩まされながら眠るのは一苦労

■著者が寝泊まりしたテント

ハイコと船頭が相談している間に、我々はソレと言ってつかの間の上陸の時間を利用し、Mはビール、私はコーラとパンを探しに走り回り、ある店を見つけ、二人で貪るように飲んだりパンをかじったりしたので、店のばぁさんも呆れ顔である。ハイコやモニカのために食料品を買ってボートに帰ったら、もう新しい船頭がエンジンをかけて私たちを待っていた。それにしても、ハイコたちはなぜあまり水をのまないのか?不思議である。恐らくそのようにトレーニングで鍛えたのであろうと思うが。

今度のボートは同じ型の船ながら、あまり波シブキが入ってこず、ビニールも巻き上げたままで航行するので快適である。

4時間半ほとでバタンタ島に着く。細長い島で、淡路島くらいの大きさはあろうか。しかし無人島の保護区である。船頭もこの島は初めてらしく、また詳しい地図もなかったので、湾に入って試行錯誤を繰り返しながら、なんとか遡上できる川をみつけ、ボートで行けるとこまで行くことにする。途中エイの群泳をみつけた。水はきれいで、白い砂浜にヤシの木のある箱庭のような小さな島もあり、本当に素晴らしい。

ボートから降りて、押したりしながらだいぶ上流までは行った頃、遂に進路に大きな流木が横たわって航行できなくなった。その付近の魚を調べたが、アーチャーやスキャットが多い。特に美しかったのは、パッファ(フグ)の大豆ほどの大きさで、白地に紺と黄色の斑点を持ったのが2百~3百尾群泳しているのには、思わず歓声をあげるほどだった。

ハイコも興奮して「カミハータさん、この川系は非常に面白いし、明日のために上流を少し調べたいので30分ほど時間をくれないか!30分したら、必ず帰ってくるから」「しかし、辺りはもう日がかげってきている。こんな所ではテントを張る場所もないので、早く帰って下流に下り、明るいうちに場所を見つけたいから、時間を厳守してくれ」と彼にくれぐれも念を押しながら、彼をジャングルの中に送り出した。

■水が貴重なジャングルの中ではこれが一食分

■湿度が高いので洗濯物もなかなか乾かない

そのうち、日はつるべ落しで暗くなってきた。しかし1時間たっても彼は帰ってこない。あたりは耳の痛くなるような静寂さだ。2時間たった。もう真っ暗で、何も見えない。モニカはボートの上に登り、上流に向かって「ハイコ、ハイコ」と声の続く限り情けない声を出して、彼の名を呼び続けていた。私たちも、これはただごとではないぞ、この真っ暗闇のなか、カンだけが頼りだが、懐中電灯だってそう長くは持つまい、いくら超人的なハイコでも、ひょとしたらひょっとしたのではないか?と心配になった。私たちは船頭まで声をそろえて彼の名を呼ぶが、声はいたずらに闇の中へ吸い込まれてゆくだけであった。

そのうち、皆の声も枯れてきた。手持ちのアメ玉を皆に与え、連呼を続けながら、遭難の悪い予感のみが頭を横切る。

私の発案で船頭に命じてエンジンの空だきもやらせてみた。船の様子がなんとなく変なので、懐中電灯で下の方を照らしてみたら、なんと潮が引いてしまって、私たちのボートは大きな流木に乗り上げているではないか。もうこうなったら度胸を決めるしかない。ハイコだけでなく我々も遭難する可能性もある。モニカの叫び声はもうスッカリ涙まじりの泣き声に変わってしまっていた。

彼女を励ましながら、「船は流木の上だ。船頭は明日の夕方でないと潮がやってこないと言っている。ハイコをこのまま待つにしても、とにかくテントを張ろう。これからはすべて私の指示通りしてくれ」と言って聞かせ、まずはテントを張ることを試みるが、両側のジャングルにはそんな空地はない。とにかく船は木の上で固定しているので、彼女のテントはボートの屋根に張ることにし、船頭はボートの中、我々はなんとか木を切ってテントの張れる場所を確保し、火を起こして食事の準備をすることにする。

■哀愁を感じさせる原住民の子供

■ジャイヤプラに向かう飛行機でスケジュールをたてる

ありがたいことに川の水はすっかり真水に変わっている。

2時間半もたった頃、モニカが「火が見えた!!」と叫んだ。見ると、真っ暗なジャングルからハイコが踊るように帰ってくる。

「カミハータさん、上流は新種ばかり、すごい、すごい!」とまるで子供のようにハシャイでいる。私たちに心配をかけたことなど気にも留めていない。彼の様子に腹が立って、日本語で「この馬鹿タレ!」と怒鳴るが、もちろん彼にはわかるはずがない。いずれにしても、こと魚となると前後の見境がなくなる男である。それがまた、ハイコの魅力でいいところなのかもしれないが。とにかく人騒がせな人である。

その日の夕食はドイツ式のポタージュをコップ半分とビスケット数枚であった。昨日は私たちの日本式カップヌードルを皆うまい、うまいと食べてくれた。”日替わりメニュー”で毎晩何が出るか楽しみである。この無人島の夜は大きなセミの鳴き声に悩まされ、なかなか寝付けなかったが、ハイコが無事帰ってきてくれたことが何よりの喜びであった。





次号に続く…

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