カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


文・撮影/神畑重三((株)キョーリン)、水上司(アクアハンズカミハタ)、
山中幸利(神畑養魚(株)東京支店)



+++ Vol.3 +++
河岸の生活に触れながらカプアス河をのぼる

程なくモーターボートがやって来た。150馬力、全長5m、時速40ノットの快速艇である。ヒルトン号という名前がついており、思っていたより立派なボートで、まずは一安心する。

乗り込むとすぐに出発だ。本日中に奥地の湖の入口にあるDANGAOSUHAIDという村にいく予定である。全速で約3時間の航行ということだ。

目的地は北西の方向のはずだが、ボートは北へ、西へ、西へ、東へ、とジグザグに進む。丸い特徴のある山が前に見えたり横に見えたり、また後ろに見えたりするからよくわかる。おおきく蛇行しているのだ。

河の両岸には小さな集落がいくつもあり、水浴びしている姿も見られ、のどかな風景である。私たちが珍しいのか手を振って見送ってくれる人も多い。

この河の夕焼けが素晴らしい。雨期のため雲は黒く、その雲の隙間からは真っ赤な夕焼けの雲が顔を出し、コントラストの強烈な夕景である。

上流に行くに従い、行き交う船もだんだん少なくなってきた。目的地が近いということで、小さな原住民用の”水上レストラン”で早めの夕食をとることにする。考えてみれば、昼はなにも食べていない。景色は素晴らしいし、腹は減っているし、ラーメン2杯をペロリと食べる。


■やっと一息、水上レストランの前で記念撮影



■櫂を上げて応えてくれる老婆


■夕映えにて


■いくら見ても飽きない素晴らしい風景が眼前に広がる


■河は生活の場でもある。女性たちが集まって洗濯をしている



■日本人が珍しいのか、どこからともなく子供たちが大集合



■アヘン氏が抱えるのは、夜釣りの収穫、ダトニオ・プラスワン。これは、旨そうだ!?


今夜はアヘン氏の友人の所に泊めてもらうことになっている。その友人はH.J.NUNUIというインドネシア系の原地民である。

ちなみに、名前の前につくH.J.はイスラムの聖地メッカに巡礼に行った人だけに与えられるイスラムの尊号である。教徒は毎日4回祈りを捧げ、熱心な信者は毎日モスクへ礼拝に行くそうだ。

暗くなってから、やっとむらについた。家はすべて河の上に立てられている。また、村共同の発電機設備もあり、文明の波はこんな所にまで押し寄せているらしい。少々複雑な気もする。

それぞれの家から川の中へ桟橋が渡してあり、その先に小屋がある。これは天然の水洗トイレである。船着き場だから幅30cm、長さ5~6mの薄い踏み板の上をピョンピョンとバランスをとりながら渡って行くのだが、真っ暗な河の上なので、私たちにとっては決してやさしいことではなかった。

また、ほとんどの家は大きな竹製のいけす箱を水中に沈めている。魚を飼育するためである。餌は芋の葉(IKANJERAWAといいタピオカの葉である。)を与えており、草食性の魚が多いそうである。その他レッドテールシャークやスネークヘッドも飼育され彼らの重要なタンパク源となっているらしい。

私たちが珍しいようで、日本人でここまで来たのは私たちが初めてであるという。ここから百㎞ほどの下流のジャングルには蛇がたくさんいる地帯があり、そこには以前日本の蛇の調査隊が一度来たことがあるそうだが、そこから奥地には外国の探検隊もあまり入ったことがないという。

例によって湿度は高く、洗濯物は乾きそうにない。蚊もブンブン飛んでおり、特に蚊に好かれるタチの水上はかゆい、かゆいと大騒ぎ。急いで持参の「マラリア予防薬」を服用させる。それぞれが暑くて寝苦しい夜であった。

狭い水没ジャングルの中を警笛を鳴らし全速力で


■これが昨夜採れた野生のアロワナの仔魚



■四つ手綱で漁をする猟師たち

翌朝6時出発。いよいよ奥地へ向けて出航だ。朝食はボートの中でビスケットを2~3枚かじって済ませただけ。

チョン氏がニヤニヤ笑いながら、今朝出発前に土地の人から聞いたという話をしてくれた。

「昨夜私たちは皆、この河に裸で飛び込んで気持ちよくマンディ(水浴のこと)を楽しんだが、ここの人がいうには、この辺りには直径1m以上もある大亀が数匹住んでおり、夜、水浴する男性のシンボルを餌と間違ってパクリと喰いちぎるのだそうだ。お互い無事でよかったなぁ」

知らぬが仏とはこのことか、くわばらくわばらとお互いに顔を見合わせ、大笑い。

水路は急に狭くなってきた。流れも速くなってきている。あちらこちらで漁をする原地民の姿が見受けられ、家族で働いているのも多い。四ッ手網があるが、一番多いのは定置網である。全長約30m×2mの道網を上げ、魚を寄せてきながら2m×4mの袋網の幅に魚を追い込んでいく。それを何度も繰り返す。すこぶる簡単な漁法であるが、一回の収穫量はけっこう多いようである。

ほとんどが食用だが、クラウンローチだけは別にして区分してあり、業者が集めにきてジャカルタに送るのだそうだ。

私たちは、その中の一組の夫婦者の漁師に魚を見せてもらうことにした。魚の種類はけっこう多いが、野生の魚というのはなんと美しいのだろうか!!クラウンローチにしても、パールグーラミィにしても、まるで別種類かと思うほど色が鮮明で光沢がある。思わず3人できれい、すごい、素晴らしいを連発する。

アヘン氏がいうには、この水系は特に魚が多いそうだが、夜「火の玉」がよく出ることでも有名なのだそうだ。夜になると直径20㎝前後のグリーンとイエローの火の玉がたくさんフワーと飛んでいるという。「興味があるんなら今夜連れて来てあげるよ」といってくれたが、興味は大いにあるが一応気味が悪いし、御遠慮申し上げることにした。


■いたるところで安置網が見られる

ボートは全速で疾走する。川幅が狭いので、漁師のカヌーはボートの波を受けて大きくバランスを崩し、中にはひっくり返りそうなのもあり気の毒になるが、私たちが手を振ると、ほとんど気持ちよく手を振って答えてくれる。

どこでもそうだが、大自然の中に住んでいる人というのは心の優しい人たちがとても多いような気がする……。 ボートは今朝から85馬力の小型にかえている。より操縦性に優れており、ジャングルの中の小径を問題なく疾走できるそうだ。支流から急カーブを切り、あっと思う間にジャングルの中の小径に突入していく水路をショートカットして近道するためである。急に出会うかもしれない原地民のカヌーに対して警笛を鳴らし続けながら急旋回を続けまるでジェットコースターにでも乗っているような気分である。写真を撮りたいと思うが、立ち上がると放り出されそうになるので難しい。

アヘン氏の卓越した技術と沈着な性格はこんな場合でも絶大な信頼感を私たちに与えてくれる。彼に「危険もあるのに何故そんなに全速で飛ばすのか」と聞くと「河の中には流木や岩が露出している所も多い。低速だと船首が上がり前方が見えないが、全速だと船首が下がり視界が効いて、とっさの場合、急ハンドルを切りやすいからだ」と説明してくれた。なるほどと思った。

そして、よりによって天候の悪い雨期(10月~3月)を選んだ理由もよく理解できた。乾期(4月~9月)には、ジャングルが深くて道もなく歩行も難しいばかりでなく、川底は浅くなって岩がゴロゴロ露出し、モーターボートではとても走行できないのだ。だから、雨期になってジャングルが水浸しになり、木の頭が水面にチョコンと出るくらいにならないと奥地へは入れないのだそうだ。


次号に続く…

TOP