カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


文・撮影/神畑重三((株)キョーリン)、水上司(アクアハンズカミハタ)、
山中幸利(神畑養魚(株)東京支店)



+++ Vol.2 +++

O氏の養殖場で見かけたショッキングな光景

ホテルへ帰る途中、O氏の所へもちょっと挨拶しておこうということで、町から大分離れた所にある養殖場を訪れた。O氏は、ポンティアナでアロワナのNo1の実力者である。ところが、何が幸いするかわからないものだ。彼の所で、夜間の仔取り作業をやっているのに偶然にも出くわしたのだ。

彼の所は警戒が厳重で、大きな鉄のトビラに囲まれており、ガードマンが四六時中警備している。アロワナに関しては当地でもすべてが秘密なのだ。

以前なら、私たちももちろん中へ入ることもできずにいきなり門前払いされたと思うが、O氏の考え方も大分変ってきたらしい。アロワナを増産し、輸出を盛んにするには、アロワナの人工養殖の実態を世界に紹介してもらうことが大切だと判断したようだ。私たちが送った『フィッシュマガジン』'92年12月号に彼の養殖場を写真で紹介してあったためか、彼らの態度はすべてがウソのように好意的であった。

チャーター機の前で記念撮影

■チャーターした飛行機の前での記念撮影


カプアス河

■全長700kmもあるカプアス河

湖沼地帯

■雨期なのでいたる所にこのような湖沼地帯ができる


小型のスピードボートで奥地へ

■小型のスピードボートでないと奥地には入れない

“仔取り”。それはまさにショッキングな光景であった。

養殖場の一部を、水深を浅くしてビニールで区切り、数尾ずつその囲いの中に呼び込み、口内保育をしていない個体は囲いの外へ出す。そして、呼吸をする時にわずかに開く口中を真正面からライトで照らし、一尾一尾チェックする(アロワナは光に対してまったく無抵抗である。)口中の仔が約5cmに成長している親を別の亀甲舎の網に入れ、口を手でこじ開けてガブガブゆさぶり、仔を吐き出させるという荒っぽいやり方である。

しかしアロワナはジャンプ力が凄いので危険を伴う。中には2m飛ぶのもいる。ジャングルの中では、この跳躍力で木の枝にいる昆虫を捕食するのである。また、鱗が固いので当たるとケガをする。ヘン氏も横腹を切られて、一週間ほど入院したことがあるそうだ。1尾の親から平均30尾ほどの仔を吐き出させる。数えてみたら、一番多かったのは48尾であった。大きな親になると百尾も出すのがいるらしい。

採取された稚魚は早速温室へ運ばれ、付着している魚ジラミのチェックと消毒の上、十分なエアレーションを行う。

それと私たちが感激したのは親の美しさである。それは私たちが今まで持っていた、アロワナに関するイメージまで変えてしまうほど美しいものであった。背中にぶ厚い金貨を並べたような黄金色に輝く鱗並。1m級のものになると、アロワナとはこんなに美しい魚だったのかと思い、ただ「ウワー、ウワー」と感激するだけであった。

50尾近い親の仔取りを見終わり、ふと我に返る。夢中でシャッターを切った。

その夜ホテルに山中からポリスビザが取得できたので明朝一番機でこちらに来るとの電話があり、イライラのフラストレーションもいっぺんに消し飛んでしまった感じだ。いよいよ明日は奥地へ出発かと思うと、その夜は興奮してなかなか寝つかれなかった。

雨期のジャングル

■雨期であるため、民家、ジャングルが湖に沈む

悪天候の中シンタンへのシャーター機の搭乗でまたトラブル

湖に沈む民家

■湖に沈む民家


神畑氏

■モーターボートに乗り込み、少し余裕が出てきた神畑氏

翌朝、今にも降り出しそうな鉛色の空だ。なんとか短い滞在中、天気にしていただけますようにと神様に祈るような気持ちである。

シンタン(Shintan)まで小型飛行機なら1時間半、車なら7時間~10時間、ボートなら2日かかるというが、何で行くのかまだ決定していない。天候次第だという。雨期なので、大事を取って時間がかかっても車で行く方が無難らしい。

そして待ちに待った山中は、ジャカルタでいろいろトラブルがあったらしく、午後の3時過ぎに到着した。その時間からは小型機も車も無理である。一晩延ばして明朝出発するということになった。滞在予定が限られているので、ますます時間が空しく過ぎてゆくのがたまらない。空費した今を取り戻すのに、悪天候でも小型機で行くしか方法がないと結論をだす。

アヘン氏が私たちを安心させようと、「以前シンタンに小型機で行く途中、運悪く故障してジャングルに不時着したが、あまりケガをしなかったから、落ちても多分大丈夫。でもパイロットに頼んでできるだけ低く飛んでもらった方が安全だよ」と、経験者はとんでもないことを語ってくれる。

明朝6時半、ホテル出発。私たちがチャーターしたのはミッショナー所属(キリスト教の伝導協会)のセスナ機だ。チョン氏は「パイロットはアメリカ人で宣教師だから大丈夫だ」というが、こちらの人の「大丈夫」は「大丈夫でない」ことが多いのだ。

空港の協会事務所では重量チェックがあった。なにしろ蚊トンボみたいな小型機だから、ウェイトチェックは慎重である。

またもや大問題、重量オーバーなのだ。ひとり残るか荷物を半分に減らせという。荷物といってもテントや食糧ばかりで減らすようなものは何もない。「そんな殺生な、前もって5人という人数は通知してあるはずだ」と抗議するが、「大体あなた方は大きすぎる(平均で約75kgか)。こちらはインドネシア人の平均5人の体重と考えてOKしたんだ」とわけのわからない言い訳をするが、皆、命が惜しいので仕方なく諦める。時間はもう10時を過ぎた。今回もまた奥地にには入れないのではないかと嫌な予感がするほど、トラブルの連続パンチだ。

水路
水路

■雨期だからこそできた水路を行く

警笛を鳴らしながら進む

■ジャングルの中、水路を警笛を鳴らしながら全速力で


カヌー

■ボートの余波を受けて危うくなったカヌー。ごめんなさい…

昼ごろになって、やっと民間航空会社のセスナを1機チャーターできた。料金は高い。30万円だ。見かけ取りされたような気もするが、金のことはいっていられない。時間の方が大切なのだ。OKを出すとすぐ出発するという。

昨年のパプアニューギニアの時もそうであったように、へき地では飛行機が飛んでくれるだけでもありがたい。時間の遅れを文句いうのはゼイタクというものだ。あの時は一日空港で待たされ、何の放送説明もなく、夕方になって「今日は故障で飛びません、ハイ、サヨウナラ」。翌日ようやく搭乗し、これでやれやれと思う間もなく、2時間ほどの飛行で目的地に着いたかと思ったら、これがまた元の飛行場へ逆もどり。機内放送なし。また、乗客の不平不満一切なし。こんなことがいつもあるらしい。だから「飛行機というものは目的地に着くまでアテにするな」というのが、私の飛行機観(?)だと皆に説明した。

2時ちょうどに離陸。機は一路シンタンへと悪天候のハザマをぬうようにして北上し続ける。眼下にはカプアスの雄大な流れが、ジャングルの中を蛇行しながら果てしなく続いている。水は褐色の濁り水だ。所々アマゾンの焼畑のような黄色い地肌を見せている。機長に聞くと、「あれは金の採掘場でカリマンタンには鉱物資源が豊富にある」ということだった。そういえばカリマンタンという言葉の意味はダイヤモンドであるということを思い出した。

雨期で増水しているためか、大きな沼地が点在しているのが見える。きっとあの中には珍しい魚が住んでいるに違いないと思うと、ワクワクするような気持ちになっていた。

上空は思ったより天候がよく、1時間あまりでシンタン飛行場に到着する。ここまでが小型機で来られる最北の地である。ここからはボート以外に交通手段は何もないのだ。

ここで早速”ポリスビザ”が役に立ち、すんなりと通ることができた。手配した車ですぐ船着き場に直行。途中町中を通って行くが、けっこう人が住んでいる。この町の人はほとんど河で生計を立てているらしい。

次号に続く…

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