カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊

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text & phot/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.7 +++

「まさに前途多難・・・。」

これから半月ほど共に過ごす「英語が話せない通訳たち」を前に途方にくれる神畑探検隊。

今回の旅もまた困難なのものになろうとしていた・・・。


カリブの海の色に魅せられて

搭乗機は美しい海上を飛行して、カリブ海のマルガリータ島の空港で止まった。機中から見えるカリブ海は、まばゆい太陽の光を受けて、エメラルド・グリーンからコバルト・ブルーまで色彩がプリズムのように展開されている。水深によって微妙に色を変えているが、透明度は抜群で、ここには世界各国からの観光客が訪れているが、もっともなことだと思う。

うつらうつらしている間に、カラカス空港に到着した。われわれが1週間前に深夜に着いたときと違って、昼間の空港は大勢の人でごった返している。とうぜんのことだが、耳に入ってくるのはスペイン語ばかりだ。空港にはラファエロの弟が車を用意して迎えにきていた。このまますぐにバレンシアまで向かうのだ。

「よっこらしょ」と背中のリュックを降ろそうとした途端、「ガシャン!」と大きな音が耳に響いた。大切なカメラがコンクリートの上に転がっている。肩にカメラを掛けていたことをすっかり忘れて、そのままリュックを降ろしたからで、普段では考えられないミステークだ。ジャングル生活を1週間も続け、極度の緊張が連続して、肉体も精神も想像以上に疲れて集中力を欠いているらしい。

「さすがは日本のカメラ、丈夫で優秀」とラファエロの弟が慰めてくれるが、フィルターにひびが入っただけで、たしかに本体に別状がなくほっとした。ところが、ふと気がつくと、カメラのカバーがない。機中でフィルムを交換したとき、外したまま忘れてしまったらしい。すぐに係員に事情を説明して機内に入らせてくれと頼むが、保安上の理由で許可されない。疲れからとはいえ、イージーミスばかりする自分が情けなくなる。まだ旅は長いのにと、気を引き締めるよう自らに言い聞かせた。

美しい緑の街路樹が並ぶ町の中心部を走り抜けていく。紺碧のカリブ海を前に、近代的なビルディングが山の上までずらりと建ち並んで、神戸の街を連想させるたたずまいだ。オリノコ河口付近で大量の石油が産出して、この国は南米一裕福とはいうものの、貧富の差は大きく、山の上にはたくさんのスラム街が見える。日本の都市と違って、金持ちが低地に住み、貧乏人は山の上に住んでいる。

首都カラカスよりバレンシアへの途中、山頂まで小さな住居がひしめいている アフリカのサバンナのようなバレンシア南部の平原 ■(左)首都カラカスよりバレンシアへの途中、山頂まで小さな住居がひしめいている
■(右)アフリカのサバンナのようなバレンシア南部の平原

カラカスから3時間かかってバレンシア市に着き、最高級のホテルにチェックインした。パスポートを提出して宿泊の手続きをしていると、フロントの女性たちがわれわれをちらちら見て、こそこそ話している。3人とも髪は伸び放題だし垢じみて汗臭いジャングル・スタイルのままなので、場違いの客が入ってきたと思っているのかと勘ぐると、英語を話す係員が、「彼女たちはこれまで一度も日本人を見たことがないので、日本のお金をお持ちなら見せてもらいたいと言っています」と告げにきた。安川が「お安いご用」と透かしの入った千円札を取り出して見せてやると、手に取って珍しそうに眺めていた。それにしても日本人が初めてとは信じられない。この国はよほど日本と縁がないのだろうか。たしかに「中国人か」「韓国人か」と聞かれることはあっても、「日本人か」と聞かれたことは一度もなかった。

お湯の出るシャワーは久しぶりだ。バスタブの中で手足を伸ばして、ゆっくりくつろげる気分は爽快で、ジャングル生活のあとはなんでもない日常事に感激してしまう。

夕食はわれわれのたっての希望で中華料理店に連れていってもらった。店の造りは中華風だったが、スタッフは全員現地人だった。流れている音楽はなぜだかアメリカのカントリー・ウエスタンで、いささか場違いな感じだ。満員の客はベネズエラ人がほとんどで、中国系らしきカップルはわずか2組程度だった。この日はちょうどバレンタインデーということもあって、若い人が多かった。

ピラニアの群れる泥水にロイヤル・プレコ

この日の目的地はリオ・バウールという南にある川だが、距離は片道200kmだから日帰りできそうだ。しかし、出発時間になっても、どうしたことかハンツが姿を見せない。約束の8時半になっても現れないので、やむなく彼を残して出発することになった。

途中、大きな湖が見えたので、どんな魚がいるのか聞くと、「石油公害で魚は全滅した」と言う。町を抜けると、あとは地平線の果てまで真っすぐに伸びた気持のいい一本道がずっと続いている。ティナコという小さな町で食料と水を買い込み、川沿いの小さなエル・バウルという町で元気そうな2人の若い漁師を同乗させた。そのとき、ラファエロが後続車の確認をせずにバックしたので、後ろの車と衝突して相手の車のフロントを壊してしまった。連日の彼の超人的な活躍に目を見張らされてきたが、やはりわれわれと同じく集中力を失っているようだ。

車はサバンナの中の悪路を走ってリオ・ポルトグェス川に出た。この川でパナクゥ(ロイヤル・プレコ)が取れるのだと言う。水はジャングルで見慣れた紅茶色と違って、白い泥水だ。川の水源はアンデス山脈の北端にあるアプレ川からの水系で、ギアナ高地を水源とするオリノコ川とは水系が違っているが、どこかでオリノコの本流とも合流しているのだそうだ。つるつると滑る粘土質の斜面を何度も転びそうになりながら川辺に降りていった。

乾期だから、水位が6~7m低くなっているという。南半球のブラジルは雨期だが、ここ北半球は乾期なのである。白い泥水のあちこちに流木がにょきにょき顔を出している。漁師たちはこの流木につかまって首まで潜って手探りで魚をとっている。プレコは水の澄んだ岩場にいる魚だから、潜って岩をひっくり返して探すというイメージを持っていたが、ちょっと戸惑ってしまった。

第一ポイント。乾水期なので水位が極端に低く採集にはチャンス ■第一ポイント。乾水期なので水位が極端に低く採集にはチャンス

魚とりを約30分ほど試みたが、10cm程度のスポッテッド・ラファエロばかりで、本命のロイヤル・プレコは見つからない。ラファエロは決断が非常に素早く、すぐに別のポイントに移ろうと言う。安川のスペイン語はかなり上達して、ラファエロとはツーカーなのでかなり助かる。ハンツの英語は当てにできないので、もし安川がいなかったら、何ひとつ身動きがとれなかっただろう。

車が少しばかりエル・バウル側に戻って、サバンナの農道に入ったが、地図がないので方向がわからない。車は4WDだから、少々の悪路でも心配はないが、見渡すかぎりの平原のところどころに森が点在するだけで、道はないに等しい。このアフリカの草原そっくりのサバンナの草の中を30分ほど走ると第2ポイントに出た。そこでは漁師の一家族が粗末なテントを張ってキャンプしていた。このポイントは前と同じ水系のようで、第1ポイントとは距離もそんなに離れていないみたいだが、ここに直接つながる道がないらしく、大きく迂回してサバンナの道を通ってきたのだ。

漁師が木陰で20cm大のピラニアをたくさん料理していた。すぐ横には50cmくらいのタイガー・シャベルノーズが並んでおり、「こりゃぁ、魚がいるでぇ」と、とたんに元気が沸騰してきた。滑りやすい粘土の斜面を降りていくと、別の漁師のカヌーがたまたま岸に着いたところだった。カヌーの中に腹の真っ赤な美しい大型ピラニアが無造作に50尾くらい投げ込まれていたのを見て、「こんなにピラニアがいては、やばいなぁ」とちょっと心配になる。それをものともせず、先発の漁師や鈴木は泥水の川に入って首までつかりながら、流木につかまって魚を探っている。

この川には、こんな凄いピラニアがうじゃうじゃいるのである タイガー・シャベルノーズを誇らしげに見せる漁師 ■タイガー・シャベルノーズを誇らしげに見せる漁師
哀れ、ピラニアもすぐにさばかれてしまう ■↑この川には、こんな凄いピラニアがうじゃうじゃいるのである
■←哀れ、ピラニアもすぐにさばかれてしまう

漁師たちの「わぁっ」という歓声が聞こえた。ややあって、ラファエロが「ノー、パナクゥ、ノー、パナクゥ」と言いながら、両手を前に突き出して1尾の魚をわれわれに見せにきた。30cm大の大型のパナクゥことロイヤル・プレコだ。にやにや笑っている。「ノー」とはジョークである。「うわー、すごい」と、ふんどしの紐を締めなおした。

■(左)第2ポイント。ピラニアがうじゃうじゃいる川の中で魚とり
■(右)とれたばかりのロイヤル・プレコはまさに造型の美
第2ポイント。ピラニアがうじゃうじゃいる川の中で魚とり とれたばかりのロイヤル・プレコはまさに造型の美

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