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KAMIHATA探検隊

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text & phot/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.5 +++

「まさに前途多難・・・。」

これから半月ほど共に過ごす「英語が話せない通訳たち」を前に途方にくれる神畑探検隊。

今回の旅もまた困難なのものになろうとしていた・・・。


カラオ川を流れる黄金の水

機は急上昇・急旋回・急降下と、曲芸飛行のような飛び方をしている。前の日にアウタナでこの種の洗礼を受けていたので、天地が引っくり返るほどのショックではないけれど、それでもジェットコースターの何倍ものスリルを感じたことは間違いない。

山の麓のジャングルすれすれにまで機が高度を落とした。眼下を流れる黄金色に輝くカラオ川の水面近く川の流れに沿ってくねくねと低空飛行を続けていたかと思ったら、とつぜん川が途切れて、黄金色のしぶきをあげるアチャの滝の上空に出た。そして、機はゆっくりと旋回してカナイマ空港に着陸した。

水煙を上げ、虹を作り、すばらしい景観を見せるアチャの滝

■水煙を上げ、虹を作り、すばらしい景観を見せるアチャの滝
背後にはインディオが「悪魔の山」と呼ぶアウヤン・テプイ(標高2700m)が聳える

カナイマは国立公園になっており、ホテルはすべてコテージ風に建てられている。すぐ目の前に雄大なアチャの滝が見える。アウヤン・テプイ山の台地に降る雨は、エンゼルフォールをはじめとして、大小何百という滝となり、アオンダの谷に流れ込んでカラオ川となり、信じられないほど膨大な水かさとなり、アチャの滝から流れ落ちているのだ。滝の落差はわずか40mそこそこだが、この乾期ですら壮絶な轟音をとどろかせ、黄金色の水煙を上げながら落下している。この大自然の豪快さは、いつまで眺めても飽きることがない。

ギアナ高地の中、アオンダの谷を流れるコーラ色の水。

■ギアナ高地の中、アオンダの谷を流れるコーラ色の水。
pHは3.5の信じられないほどの強酸性であった

カラオ川の岸辺。砂まで赤い。

■カラオ川の岸辺。
砂まで赤い。

凄まじい瀑布の中を行くカヌー

■凄まじい瀑布の中を行くカヌー

アチャの滝の近くで網引き

■アチャの滝の近くで網引き

カラオ川の水は世界の川の中でも最も酸性度が高いと言われ、測定するとpH3あるかないかの強酸性である。困るのは洗濯である。白いものがすべて黄ばんでしまうからだ。白いホーローの洗濯台の蛇口をひねると、出てくる水はコーラそのもので、ちょっと異様な感じがする。水温も22℃と低く、そのせいか川で網を引いてもほとんど魚影がなく、地味な色のテトラ系の魚が少し見えるだけだった。

この旅が終わったあと、友人のドイツの探検家ハイコ・ブレハに会う機会があった。彼から「アオンダの谷には世界でも珍しい真っ赤なカラシンがいる」と聞いて、網引きを早々にあきらめてしまって残念なことをしたと悔やんだが、あとの祭だ。底の土質は小豆色をした小倉シャーベットのような美しい砂で、日本へ持ち帰ったら観賞水槽用の底砂として飛ぶように売れるだろうと思うほど奇麗だった。

夕方、アオンダの滝を見ながら水浴するつもりでカラオ川に入ったところ、あまりにも冷たすぎて2、3分ですぐ飛び出してしまった。

ロッジのテーブルの上に野生の鳥が遊びに来る

■ロッジのテーブルの上に野生の鳥が遊びに来る

雲海に浮く不思議な方舟ロライマ山

きょう、いよいよ夢にまで見たロライマ山に挑戦することになった。天気が心配で夜中に何度も外へ出ては、星空を眺めて空模様をうかがい、どうやら大丈夫らしいと胸をなでおろした。標高2810mのロライマ山は、面積が45平方キロメートル、南北12kmにわたる広大なテーブル状の台地である。

ギアナ高地図鑑

■ギアナ高地図鑑 手前がロライマ山である。

シャーロック・ホームズの原作者コナン・ドイルが「失われた世界」という小説でギアナ高地にいまなお恐竜が生きのびていると書いた。この話はロライマを舞台にした物語だが、現実に小型恐竜が棲んでいるというライメ人類学者の報告もあって興味深い。1955年、この山麓のジャングルに仙人のような暮らしをしていた謎のアメリカ人ライメはアウヤン・テプイ山の上の川でダイヤモンドや金塊を探しているとき、岩の上でひなたぼっこをしている奇妙な動物を見かけたという。その動物は全身が鱗で覆われ、体長1mにも満たない首の長い動物で、ライメは6000万年前に絶滅した水中生活をする恐竜の仲間のプレシオサウルスではないかと発表した。たしかに、そんな未知動物が棲んでいても不思議でないと思わせるほど、ここは時代を超えた空間である。岩山そのものがミステリアスな雰囲気を漂わせている。

カナイマ空港にはヘリがないので、エルドラードから呼び寄せたヘリコプターが約束の午前9時半に「パタパタ」と軽快なローターの回転音を響かせながら飛んできた。機から降りてきたパイロットの顔を見て、「はてな、どこかで見た覚えがある」と懸命に思い出そうとしたら、アフリカのリビアで暴れん坊として知られる独裁者カダフィ大佐のそっくりさんだ。思わず吹き出してしまう。

パイロットの説明によると、「ロライマまでは川沿いのサバンナ地帯の上を飛んで往復4時間かかるが、少し遠回りでもそのコースが最も安全だ」という。ヘリが川沿いを南下すると、機上から見るサバンナは整備された巨大なゴルフ場のように見える。地上から見るとヘリコプターはけっこう速く飛んでいるように見えるが、セスナ機に比べるとなんとものろのろで、もどかしい。地平線の彼方の雲間からテーブル・マウンテンがあっちこっちにそびえたつ姿を見て、興奮でそわそわしてくる。

下を見ると、サバンナのブッシュの中に墜落した小型機の白く光った残骸が見えた。機体の白さが鮮やかで痛々しく、古いものではない。ギアナ高地では、1年を通じて5000mmを超える雨が降り、霧が濃くその上乱気流を伴うので、頻繁に航空事故が起こるという。事故が起きると、この周辺のヘリや小型機はすべての予約をキャンセルして、緊急発進して仲間の救助に向かうので、ツーリスト達は大混乱してしまうのだそうだ。

最近墜落したと思われる小型機の残骸。

■最近墜落したと思われる小型機の残骸。機体の白さが痛々しい。

ギアナ高地にはこんなテプイ(台地)が200近くあるという

■ギアナ高地にはこんなテプイ
(台地)が200近くあるという

南下するにつれて、だんだんと雲が増えて、雲行きが怪しくなってきた。さらに1時間半ほど飛んだところで、給油と天候待ちのために途中着陸した。ロライマ山のある南の空はべったりと雲で覆われている。天候の回復を制限時間いっぱいの12時まで待ったが、時間ぎれになっても回復せず、天候の悪いまま見切り発進することになった。

奇怪な形をしたテーブル・マウンテンをいくつも越えて飛んでいくが、目ざすロライマ山はまだ雲の中だ。給油場所からロライマ山までは約30分のフライトと聞いていたが、もうとっくにその時間は過ぎている。ロライマのそばまで来ているには違いないけれど、機体の前後上下左右がすっぽりと乳白色の濃い霧に包まれて、まるでミルクの入ったコップの中につかっているような気分だ。乱気流にあおられた機が激しく横揺れ、縦揺れを繰り返す。機長がその雲の中をかき分けるようにして、ヘリを山に近づけていく。雨がフロントの防風を激しく叩きつけてくる。

はりつめた表情で必死に機を操っていた機長が急に前方を指さす。指さす方向のミルク色の雲海の中から黒いロライマ山がちょっぴり頭を出している。プロアと呼ばれる戦艦のへさきのような巨大な山の壁が目の前にぐっと顔を突き出してきた。まさにその北壁だ。ヘリが大きく「パタパタ」と左右に旋回しながら近づいていく。夢中でシャッターを切るが、こんな状況になると、恐怖を感じなくなるらしい。

北壁の20mほど手前でヘリがとつぜん大きく反転して絶壁から離れた。機長がこんな天候では頂上の台地に着陸するのは困難と判断したらしい。残念だが、ほんの少しだけでも見ることができたことを幸せと思うほかない。乾期でさえこの状態だから、雨期がどんなにすごい状態なのか、想像もつかない。晴天時には地球で最も壮大な景色が見られるそうだが、年間を通じてほとんど霧と雲に覆われており、晴れた日は1年のうち数えるほどしかないらしい。北壁だけにしろ、とにかくロライマ山を見ることができたのだ。無理すると命に関わるので、無念だが撤退することにした。

前方、雲の中にロライマらしき岩壁が顔を出す

■前方、雲の中にロライマらしき岩壁が顔を出す

機ははげしくかぶりながら、雲海の中をロライマ山へと近づいていく

■機ははげしくかぶりながら、雲海の中をロライマ山へと近づいていく

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