カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊

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text & phot/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.3 +++

「まさに前途多難・・・。」

これから半月ほど共に過ごす「英語が話せない通訳たち」を前に途方にくれる神畑探検隊。

今回の旅もまた困難なのものになろうとしていた・・・。


秘密の楽しみヤノマミ族のジュポ

男はほとんど狩に出ており、留守番役の男性は老人のみ少しラリっている

■男はほとんど狩に出ており、留守番役の男性は老人のみ少しラリっている

タスキは白い宝貝で作ったもの。彼女たちはアジア系の顔立ち

■タスキは白い宝貝で作ったもの。彼女たちはアジア系の顔立ち

ビデオカメラに群がる子供たち

■ビデオカメラに群がる子供たち

老人の男たちの顔つきが尋常でない。明らかにラリっている。ここには”ジュポ”という秘密の楽しみがある。森で取れる薬草を粉末にして、長い竹筒を吹き矢に見立てて粉を詰め込み、これを相手の鼻に突っ込んで、もとから勢いよくぷーっと息を吹き込むと、吹き込まれた相手はショックでひっくり返って、ゲーゲーと戻したりするが、そのうち幻覚症状が生じて、コンドルにでもなったつもりか、大空を飛び回るような仕草などをするようになる。

若い男性がいれば、われわれもその洗礼を受けさせられたに違いない。なぜなら、ジュポは招待の儀式だからである。少しばかりのお菓子や食べ物をあげたくらいでは、とても無罪放免とはいかなかったであろう。

ヤノマミ族の男性の仕事はおもに狩りだけだが、女性の仕事は薪集め、水汲み、魚とりなど、重労働が多岐にわたっている。ハンモックは彼らの発明品だが、森から野生の綿を摘んできて、糸を撚って長い時間をかけて織っている。ちなみに、この綿からは衣服を作ることはない。暑いので、着るものは不必要なのだ。夜は冷えるけれど、薪を燃やして暖をとっている。

ヤノマミ族は酒も作る。芋を口でくちゃくちゃと噛み砕いて、ペッペッと吐き出し、唾液ともども壺の中で発行させている。酵母菌を持っていないからだ。ご馳走になった漁師の話では、アルコール度は非常に低いということだった。

風変わりな風習としては、親しい人が亡くなると、死者を焼いた骨を粉にして、個人を偲んでバナナ・ジュースに入れて飲み干すという。相手を愛するがあまり、自己の中に取り込みたいという願望であろうか。ニューギニアのアスマットという人食人種には殺した相手を食べる奇習ががあるが、これは敵である死者の霊が復讐しないように食べてしまうのだと言われていて、インディオの風習とはちょっと違っている。

ヤノマミ族はまた心優しい風習も持っている。娘が初潮を迎えると、しばらく別棟に隔離するが、その間に父親は娘のために森の中で集めた樹液で透明の棒を作り、大人になったお祝いとして娘にプレゼントする。娘はこれを鼻や耳に差す飾りにして一生大事にするのだそうだ。

母親は手製の壺をプレゼントする。ロクロを持たないので、粘土を糸状にして積み重ね、薪を燃やして何日もかけて丹念に焼き上げるが、娘は大切な生活必需品として一生使うそうだ。厳しい自然界で相互にいたわり合って生きていくヤノマミ族の社会性が垣間見えてくる。

しかし、われわれが訪問したヤノマミ族はもっと現実的であった。これ以上何も貰えないことが分かると、「早く帰れ」という仕草をする。こんな場面に男たちがかえってきたら、それこそやばいので、ボードを出航させようとするが、子供たちが猿のように群がって荷物を狙って跳梁している。彼らを追い払ってボートが動き出したら、いっきに緊張感が緩んで、一同いっせいにほっとした表情を見せた。いずれにしろ、貴重な体験には違いなかった。

ヤノマミ独特の円形住宅に集まった子供たちはほとんど素っ裸

■ヤノマミ独特の円形住宅に集まった子供たちはほとんど素っ裸

夜間採集で珍しいアピストを採取

恨めしそうな顔をしている。夜食のスープになる亀

■恨めしそうな顔をしている。夜食のスープになる亀

これも今晩のご馳走なのか、カピバラの塩漬け

■これも今晩のご馳走なのか、カピバラの塩漬け

カシキアレを離れると、緊張がほどけたのか、みなうつうらうつら寝入ってしまったが、気がつくと、ボートは前夜お世話になったインディオ村の船着場に接岸していた。ここに住むインディオの男性を一人同乗させることを頼まれていたからだ。お土産に持っていくのか、彼は直径40cmほどの亀とカピパラ(世界最大のネズミ)の皮を剥いだ肉の塩漬けを持っていた。両側にはうっそうとしたジャングルだけの同じような単調な景色が2時間ほど続いた後、川の中に大きな岩が突き出した場所に接岸した。

その夜はこの岩山の地でキャンプすることになり、ここに住むインディオが岩の上にある小屋をわれわれに貸してくれることになった。小柄だが、見事な筋肉を持ったインディオの男性がここに2人だけで住んでいた。この夜は亀のスープ料理らしく、土産にもらった亀を住人のインディオが自らナイフでさばいていたが、うまそうな匂いが漂ってきた。あの亀が料理されたのかと思うと、ちょっとかわいそうな気がしないでもなかった。

ネグロ川の雄大な景色を一望できる見晴らしのいい岩場で食事したが、この日は朝から体調を崩して食欲がなく、せっかくの亀のスープも一口なめただけで、日本から持参した貴重品のカップヌードルさえも口に入らない。「こんな状態で今後の強行日程を乗り切れるだろうか」とか「日本には無事帰れるのか」などと考えると、すっかり自信を喪失してパニックに陥りかけたので、あわてて頭を切り替えて、先のことを考えないようにしていた。そうするのがいちばんのパニック撃退法にもなるからだ。私の経験ではジャングルの中で最も恐ろしいことは、自らが招くパニックである。

パニック撃退法は、目の前の現実的な事柄だけを考えることである。普通の川だと洗濯するときに砂や泥が舞い上がると小魚と錯覚して肉食魚のピラニアが襲ってくるからとか、岩の上に寝転がると昼間の強烈な太陽で暖かくなった岩がほこほこの床暖房のようで快適だとか、インディオの住居は不思議と岩のあるところが多いのはなぜだろうかとか、などと考えて気を紛らせていたら、パニックが治まってきた。

今夜はここで泊めてもらうことになり接岸する

■今夜はここで泊めてもらうことになり接岸する

インディオの好意で客人用の小屋を供給される

■インディオの好意で客人用の小屋を供給される

食事がおわったあと、ジャングルに魚をとりに行くことになり、ハンツに頼むが、「いまは水位が高いから、ジャングルに入っても魚がいない」とか、「網を積んだボートの魚師が来ないから無理だ」とか、言い訳ばかりして行こうとしない。「ネグロ川で魚とりができるのはこの日しかない」と言うと、「今回の旅行は観光が主目的だと聞いていたので、魚をとる準備はしていない」と答える。その一言が体調が悪くて気分のすぐれない私の頭にかちんときて、思わずどなり声を上げてハンツにかみついた。

ラファエロがこの場の成り行きをじっと黙って見守っていたが、言葉はわからなくても状況を判断したらしく、すぐに手持ちの網を積んでボートを出してくれた。岩場から支流にちょっと入ったところで砂地を見つけて、網を入れる。水はph4.5の酸性で、紅茶色だが、透明度があり、信じられないほど綺麗な水だ。水中にはカラシン類がたくさん泳いでいるが、動きが早くて、小さな網ではなかなか捕まえられない。やっとすくいあげたアピストの一種が珍種らしく、ラファエロに頼んで日本に送ってもらうことにした。

「夜になると魚が水面に浮き上がってくるので、一度キャンプに戻って、二が暮れてからまた来よう」とラファエロが提案するので、早々に切り上げてキャンプ地に戻った。現金なもので、魚とりしたことで私の体調はすっかり回復したようだ。何日ぶりかで通じもあり、身も心もすっきりした。ジャングルでは下痢よりも便秘のほうが大敵なのである。

岩場の下の川で洗濯したり、水浴びしたりして、のんびり過ごしたあと、9時すぎにまたボートに乗り、暗闇のジャングルに入っていった。一度きているので、勝手知って仕事がしやすく、水面にライトを当てると、ラファエロの言ったとおり岸近くの水面に魚がたくさん浮かび上がっている。昼間に姿を見せなかった魚種も多くいる。仕掛けていた網をたぐると、網目が大きいので大型魚ばかりだが、50cmくらいの淡水イシモチ、20cmほどのメチニスなどがかかっていた。少し奥に入ると、ホーリィ、アピスト2種、ハンソン、ペンシルなどがとれて、けっこうな収穫だった。小屋に戻ると、ハンツが1人でふて寝していた。

夜間は、魚が水面に浮かび上がってくるので採集は簡単だが、未開の地では何が出てくるかわからないので夜間採集には細心の注意が必要だ

■夜間は、魚が水面に浮かび上がってくるので採集は簡単だが、未開の地では何が出てくるかわからないので夜間採集には細心の注意が必要だ

ラファエロの手の中には目がルビーのように輝くピラニアが

■ラファエロの手の中には目がルビーのように輝くピラニアが

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