カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


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text & phot/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ Vol.4 +++


「ハードな旅になることは予測されていた・・・。」

コロンビアはコカインの密輸でも悪名が高く、治安の悪さも世界一だといわれている。

それだけに出発前から身の引き締まる緊迫感を覚えた。

当初からハードな旅になることは予測されていた・・・。



ゲリラと接触を持つ村レマンソ

レマンソの山麓にインデオのカヌーが見える

■レマンソの山麓にインデオのカヌーが見える

レマンソはゲリラと関係がある村といわれていて、住民の表情はいまひとつ暗い

■レマンソはゲリラと関係がある村といわれていて、住民の表情はいまひとつ暗い

明け方近く、激しい雨音で目が覚めた。テントの前垂れを開いてみると、雨と靄とで周囲がぼんやりとしか見えない。腹這いのまま外をうかがうと、牛が二、三頭われわれのテントを珍しそうにのぞき込んでいる。牛に看視されているようで、なんだか妙にみじめな気持ちになる。

幸いにも十時過ぎに雨が小降りになり、日が差してきた。この日はレマンソという大きな岩山のある村に向かうことになった。親切な村人が見送ってくれるが、もう二度と会うことのない人たちだけに、なにかしら名残惜しい気持ちになる。

太陽が出ていないので、風を切って全力疾走するボートの上は肌寒く、がたがた震えがくる。カッパを着て、なんとか寒さを防いだ。対向するカヌーもボートも見かけない。出会うのは砂金堀りの船だけだ。やがて川が二つに分かれ、進路を右にとると、前方に大きな岩山が見えてきた。奇怪な一枚岩だけの岩山で、その異様な姿はオーストラリアの臍と呼ばれるエアーズ・ロックに似ている。

ボートは再び何時間も走り続けてサムロに向かった。近づくにつれ、滝のような轟音が聞こえてくる。川幅いっぱいに白波を立て流れが渦を巻いた激流が遠方からもよく見える。ボートはここまでしか行けないので接岸して、山をぐるりと迂回すると、奔馬のごとき物凄い流速で渦巻く波立ちが見えた。写真を撮るため、おそるおそる近づくと、2kmほど先にもっと凄そうな光る滝が見えたので、あそこまで行けないかと頼んだが、危険すぎて無理だと断られた。

この急流ではこの先ボートが遡上できそうにないので、仕方なくレマンソに戻って、夜間のジャングルでの魚とりに備えることになった。レマンソはインディオが約500人住んでいて、小さいながら小学校もある。その学校の廊下にテントを張らせてもらうことになった。インディオの子供たちが集まってきて、テント張りの作業を物珍しそうに見つめていたが、彼らの顔の表情が暗いことがどうにも気持ちに引っかかる。

3つの山の裏面に奇怪な”ほれ薬の木”があって、「自分を好きになってもらいたい人にこのこの葉っぱを煎じて飲ませると霊験あらたかだ」というインディオの伝説があり、行ってみないかと誘われたけれど、飲ませる相手がいないので辞退した。

前夜世話になった人のよい漁師たちと違って、レマンソのインディオたちはなぜだか表情が暗い。日が暮れるとすぐ、大型カヌーに小型カヌーを積み込んで支流に漕ぎ入れたが、しばらく進むと、川の真ん中で、「ブス、ブス・・・」とエンジンが止まってしまった。エンジンを何度もかけなおし、支流を探し当てながら、よたよたと密林に入ると、川幅が狭くなり、そこで積み込んできた皿のような浅い小型カヌーに乗り換えたが、全員が乗ると、身動きができず、いまにも転覆しそうだ。仕方なくホリフだけが大型カヌーに残ることになった。

蜂の来襲を防ぐ為のネットを着用

■蜂の来襲を防ぐ為のネットを着用

美しい蝶もわれわれを歓迎して飛来してくる

■美しい蝶もわれわれを歓迎して飛来してくる

ホタルが暗闇を飛んでいる。「PHが低いので蚊がいなくて助かるなあ」と山中と話していたら、蜂がライトを攻撃してきた。私はすぐヘッドネットをかぶって蜂の攻撃を防いだが、山中は2度、3度と刺されて、「痛い、痛い」と悲鳴を上げている。

この支流は前夜訪れた川よりも透明度がありそうだ。木の枝の間にアルタム・エンゼルが見えたので、「ネット!」と漁師に声をかけると、大型カヌーに「忘れてきた」と言う。腹が立ったが、この頼りない船頭では先が思いやられるし、命が危ないと判断して、急いで村に戻るよう命じた。

カヌーにどこからといもなく浸水してくるので、山中と二人してティーカップを手に懸命に水をかき出す。カメラはナイロン袋に入れていたから助かったものの、カヌーが転覆でもしたら、カメラどころの騒ぎではあるまい。ワニはいないけれど、水中には灌木がぎっちり水没しており、枝で怪我して血を出してバチャバチャやれば、血の臭いをかぎ分けたピラニアの襲撃は避けられまい。

山中が「この夜がこんどの旅で真剣に生命の危険を感じた」と言っていたが、戻ったのは懸命な判断であった。ジャングルでの遅すぎる判断は往々にして命取りになりかねない。ジャングルでは何が起こるかわからず、素早い判断力こそが命を救ってくれる。

命からがら大型カヌーまで戻って、レマンソへの帰途についた。途中、見事なムラサキチョウが飛んできて、われわれの目を楽しませてくれたことがせめてもの慰みだった。夜空にきらめく星がプラネタリウムのようにすぐ目の前に迫る。首が痛くなるほど夜空を眺め続けるが、飽きることはない。

生態系が未解明の野生カージナル

サンタ・ローサのインディオの家にて休憩

■サンタ・ローサのインディオの家にて休憩

とれたばかりのブラック・ピラニアの串焼きのご馳走

■とれたばかりのブラック・ピラニアの串焼きのご馳走

翌日もまた朝から肌寒いどんよりとした雨模様だった。夜も明けきらぬころ、村人の写真を撮ったり、彼らの家の見学に行くと、男たちが銃を所持している。レマンソはゲリラとの接触が多く村人は、彼らに同情的であるという。道理で村人の顔の表情に明るさがないのも、政府軍と反政府軍のはざまで悩む人々の複雑な心の揺れのせいかもしれないなと思った。

ボートが下りに向かうと、速度が出るのでいっそう寒く、本降りの雨中をぶるぶる震えながら何時間も走り続けた。カニョボコンという支流に入ると、水の色が一変する。チョコレート色だが、透明度が高く、きれいな水だ。しかし、この雨ではカージナルの生息地を調査できない。

しばらく上流へ進むと、インディオの藁葺き家屋が二軒だけあるサンタ・ローサという小さな村に着いた。雨足が強くなってきたので、雨宿りを兼ねてこの家で休憩させてもらうことにした。急勾配の坂を滑りながら登っていくと、インディオの家の中では取り立ての獰猛なブラック・ピラニアを小さなかまどで串焼きにしていた。その鋭い歯並びを見て、昨夜カヌーが転覆していたら、こんな奴に襲われたかもしれなかったと思うだけで、ぞくぞくっと身が震えた。

レマンソはカージナルの生息地で、インディオが「カージナルはたくさんとれるが、雨だと水面がよく見えないのでとれない」と条件をつける。インディオのカージナル採集法は、金網を折り曲げて四角い袋網のついた枠を作り、網の奥のほうに餌を入れて魚をおびき寄せ、つられて入ってきた魚を小さなタモですくい取る漁法である。あるいは、50cm四方の袋状の手綱を仕掛けておいて、棒切れでカージナルの群れを脅しながら袋の中へ追い込む方法もあるそうだ。「そんな原始的な方法で取れるのか」と山中が不審な顔をすると、インディオが「雨が止んだら見せてやる」と意気がっている。

ジャングルの中は夢にまで見たカージナルの大群生

■ジャングルの中は夢にまで見たカージナルの大群生

カージナル

■カージナル

山中は日ごとにスペイン語に慣れてきて、ペラペラと堂に入ったもので、こまめに通訳してくれるので頼もしい。インディオの食生活や生活道具などの興味深い話を聞いたり、ペットの猿と遊んでいるうちに雨が小降りになった。カージナルの偵察におもむいていたインディオが足取り軽く帰ってきて、「いっぱい、いるぞ」と報告する。

はやる気持をぐっと押さえながら、小走りに彼についていくと、川とは反対方向のジャングルに入っていくではないか。着いた場所は沢のような木がまばらに生えた水の浅い場所で、見ると落葉の上をすいすい泳ぐカージナルの影が見えた。

さっそく網を借りて、教えられたとおり棒で魚を追い込んでいく。そっと網を上げると、ネオン色に輝くカージナルが十尾近く泳いでいた。「やった!とうとう野生のカージナルの採集に成功したぞ」と思わず笑みがこぼれてくる。インディオイに「網を動かして魚を追えば、もっと利率が上がるのでは」と質問すると、「網を動かすと魚といっしょに底の枯れ葉が大量に入ってきて、魚が傷むし、かえって手間がかかる」と言う。なるほどと感心した。枯れ葉から有機酸が溶け出してpHを下げ、カージナルの住みやすい環境を作り出しているらしく、水質はpHも電気伝導率もアルタムの採集域とよく似た環境であった。雨もすっかりあがって、待望のカージナル採集にも成功し、インディオにお礼を述べてルンルン気分でボートに乗り込んだ。

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