カミハタ養魚グループは人と生き物が共に暮らす環境をトータルに提案します

KAMIHATA探検隊


text & phot/神畑重三((株)キョーリン)・大橋正嗣(神畑養魚(株))
+++ Vol.4 +++

悪路激走の車中で食事

11月23日、今日は、カンボジアとの国境にある「パーペーン・コーン」の滝に行くために、ホテルを早朝出発する。国内線で南の方のキャプシーという町まで飛ぶ。このあたりの小さな空港になると、建物は日本の田舎にあるような鉄道の駅のようなひなびたものである。ホテルにチェック・インしてすぐ出発する。われわれの目的は、滝の近くに生息している淡水イルカを観察するということである。片道4時間はかかる道のりの上、町を離れると例によってすごい土埃で、窓を締め切っていても車の中まで埃が立ちこめて目が痛い。おまけにひどいデコボコ道。時間が惜しいので、走りながら車の中で昼食を食べるが、口の中も土埃でジャリジャリする。11時40分、やっとのことでロディオのような道を乗り切り、川幅の広さで落ちているというメコン最大の滝、「コーンの滝」にたどり着いた。

コーンの滝

■コーンの滝。メコンとは思えない荒々しい姿。

■コーンの滝。メコンとは思えない荒々しい姿。

この滝は、メコンの支流の一つにあり、川の中に点在する小島の間を縫うように激しく轟音を立てて流れている。落差は、さほど大きくないが、水煙を上げながら岩をかみ、荒れ狂ったさまは、凄まじい迫力だ。悠々として流れ、ゆったりと時を刻んでいるメコンが、こんなに荒々しい一面を持っているというのは、ちょっと意外な感じがする。

それにしても、この岩礁の荒々しさはどうだろう。ふつう、滝の落ち口にある岩は、水の流れに磨かれて丸くなっているが、ここは刃物で切り取ったように鋭く、荒々しく尖っている。

この滝のために、水上交通は不便をきたしているという。

珍種、淡水イルカを求めて

コーンの滝の数km下流にイルカが凄んでいるとのこと。イルカたちが浮上してきて、丸い頭を水面に出し、群れているのがよく見られるらしい。

しかし、紛争の国境地帯であるためか、これだけの景勝の地でありながら、さらに日曜日だというのに、観光客の姿は一人も見られない。一般の旅行者が来られる所ではなさそうである。

とにかく下流へ行こうということになったが、困った問題が発生した。ここから南は、カンボジアとの国境が近いため、警備が厳しくて、途中、軍とポリスの検問所があり、通行は不可能だという。ビエンチャンから連れてきたわれわれのドライバーは、首を縦に振ってくれない。せっかく、苦労してはるばるここまでやって来たのだから、何とか行かれるところまで行こう、責任はすべてわれわれが持つ、ということでドライバーを強引に納得させた。

■ニードル・ガー

■ニードル・ガー

ジャングルを切り開いて作られた一本道は、無人緩衝地帯になっているのか、”シーン”と静まり返って不気味であった。緊張しているのか、皆黙りこくっている。途中、心配していた検問に会うこともなく、30分ほど走って粗末な小屋が10軒ほど建ち並んでいるところに到着する。横を流れる川の向こう岸はカンボジアだ。

川辺の砂浜には、1隻の小型ボートが繋いであった。その船尾の旗は、見慣れた赤字の紺の帯の入ったラオスものではなく、特徴のあるアンコールワットの模様の入ったカンボジアの国旗であった。対岸までは200mほどの近い距離で、ジャングルの中には、監視小屋のような建物が見える。われわれの存在も双眼鏡で兵士に確認されていると思われる。ヨーさんが、小声で「ここの人、カンボジア人だ」と私に言う。彼らは、われわれ日本人を見るのが初めてのようで、集まって来ては、珍しそうにしげしげと顔や持ち物を見つめている。彼らは、今まで見慣れたラオス人とはちょっと雰囲気が違う。皆、色が黒くて頬のとんがった厳しい顔つきである。が、敵意はなさそうである。

数人の男を捕まえ、ガイドに「われわれは、イルカの調査に来たので、ここからボートを出して上流のイルカがいる所へ連れていってもらえないか。」と交渉するが、「この対岸のカンボジア北部の一帯は、今なお戦闘が行われていて、ラオス側も神経質になっている。1人だけなら、何とかボートのそこに隠して、連れて行けるが、全員では危険すぎて責任は持てない。」と言う。何も命を懸けてまでイルカを見ることもないので、残念だが断念することにした。

■国境からキャパシーへの帰途、素晴らしい夕焼けに出会う。

■国境からキャパシーへの帰途、素晴らしい夕焼けに出会う。

ガックリと気落ちしているわれわれを見て、住民の1人が気の毒に思ったのか、2枚のポスターを持ってきてくれた。淡水イルカとメコン棲息魚を載せたポスターだ。礼を言って早速写真を撮らせてもらう。さらに、このポスターを譲ってくれないかと頼むと思いのほか安い値段で気持ちよく売ってくれた。

帰途、素晴らしい夕景に出会う。空の上の方には、まだ澄んだ青空が残っているのに、下の方は真っ赤な夕焼けで、色とりどりの雲が長く横に流れていて、息をのむほどの美しい眺めである。

とにかくにもすごいマーケット

11月24日、この日は、キャプシーの近くの川でこの国最後の魚採りを楽しむ。このあたりは、ビエンチャンから南に位置するので、少しは変わった魚が採れるかと期待していたが、ほとんど代わり映えのしない魚ばかり。途中、山の中の干上がった池の中で40~50人の村人が泥だらけになって魚採りをしているのに出会った。採った魚を見せてもらったが、ティラピア、スリースポット・グラミー、キノボリウオなどで、目新しい魚はいない。それもほどんど食用魚である。

■一軒だけあったペットショップで当社の製品を見つけて嬉しくなる。

■一軒だけあったペットショップで当社の製品を見つけて嬉しくなる。

ガイドは、メコンで採れた大きな魚が毎日出ているというマーケットに連れていってくれた。この国では、町の中に独立した商店のような店舗ではなく、すべての物資は、マーケットで売られているのだ。連れて行かれたところは、大橋が「ここのマーケットの汚さ、今までの中でワーストワン」と言っていたが、日本人の常識では、考えられないほど不潔で、吐きそうになるほどの悪臭とハエの大群で、神経質な人は、気分が悪くなってしまうほどすごいものであった。番台の上では、大きなウシの生首が目をギョロリと開けたまま、並んでいるかと思うと、その横に孫悟空の猪八戒のようなユーモアラスな顔つきをしたブタの首が真っ白に洗い磨かれて置かれ、内臓も山積みにされている。どれもにゴマをまぶしたようにハエが群がっている。
■ネズミも食用として売られている。

■ネズミも食用として売られている。

ヘビも水ヘビから陸ヘビまで種類も豊富だ。また、カエルは生きたものは、カゴに入っているが、串刺しにしたり、皿に盛りつけたりして、ひと山いくらで売っている。ここのカエル、褐色で背中は「ガマ」のようにイボ状の突起があり、気味が悪い。

もっとびっくりさせられたのは、ネズミが腹を割かれて並べてある。「ネズミか?」ときくと「そうだ。」と言う。私もいろんな国の市場に行ったが、ネズミを食う国は初めてである。網の中で「モグモグ」と動いているのはモグラだ。これは、薬用にするらしい。

人なつっこい笑顔の女性がわれわれに小魚の天ぷらの試食を勧めてくれたりする。この胸の悪くなるような悪臭の市場で働いているのは若い女性ばかりで、彼女たちの明るく屈託のない笑顔に救われる。いずれにしてもこの市場にきたのが、昼食後であったのは幸いであった。

エピローグ

■インドシナオオスッポン

■インドシナオオスッポン

この後近くのホテルへ連れて行かれた。そこは、広々とした裏庭があり、その向こうにドロ褐色した川の流れが目に入った。川から吹き上げてくる涼しい風に当りながら飲み物を飲んでいると、ここのホテルの従業員がわれわれのためにカメを持ってきてくれた。彼は、空の池の中にはもっといろんな種類のカメがいると言う。早速見に行くと、オオアタマカメ、ホシガメをはじめ、5、6種類のカメがゴロゴロしていて、ラオスにもこんなカメがいるのかとびっくりさせられた。

ほとんどがこの裏の川で捕まえたものだという。この川は、ベトナムの方から流れてきており、メコンとは水系が違うらしい。

写真を撮らせてもらったお礼にチップを渡すと「これは、私の趣味で商売ではないから。」と丁重に辞退して受け取ってくれない。旅先でこのような清々しい素朴な人に出会うとこちらまで思わずうれしくなってしまう。

魚の採集ではちょっと期待が外れたラオスであったが、親切で明るい人柄とちょっとシャイな笑顔を見せるこの国の人たちに、われわれは、すっかり魅せられてしまった。是非、また、訪れてみたい国である。

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