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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in MALAYSIA 「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」です。
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ マレーシア/1 Vol.1 +++

「国境の川(アル・ポンス)でアロワナ探索の旅」

インドネシアのスーパーレッド・アロワナは飽きるほど見てきたが、
ゴールデンには一味違う美しさがあり、新鮮な魅力を感じる。
東南アジアで群を抜いて高い経済成長率を誇るマレーシアで、
願わくば、この手でなんとかゴールデンを物にしたいとファイトがたぎってきた。


アロワナシーズンには少し早すぎたか?

マレーシアのジョホール・バールからペナン空港に到着したのは、熱帯特有のけだるい陽光が差し込む昼下がりだった。 五月の浜風が肌に爽やかで、改めてこの地が島であったことを思い起こさせる。 チョンと日浅と私の三人を空港で迎えてくれたのは、調査隊のキャプテンを務めるド クター・ローであった。ロー氏は東京大学の水産博士号を持つ日本語も堪能な異色の人物で、マ レーシアの国家的大企業のクンプラン社に籍を置いている。

ロー氏との出会いは、シンガポールで開催される世界観賞魚展アクアラマ・91のときで、 そのときゲスト・スピーカーとして招かれた当社の社員が彼と会って、 両人が東京水産大学の大学院の同期だったことが取り持つ縁で、私どもの会社との関係が始まった。

今回はゴールデン・アロワナの生態を調べたいというわれわれのたっての要望に応えて、 ドクター・ローがすべての計画を練り、国家企業という強力なコネを使って漁業省や関連官僚にわたりをつけ、 軍の管理下に置かれたタイとの国境にある湖への入境許可を取ってくれた。

空港にはペナン島での熱帯魚輸出業者の第一人者のチュウさんが迎えることになっていたが、 姿が見えない。チョンがぶつぶつ言い始めたころ、一時間近く遅れてチュウさんがひょうひょう と現われた。いかにも彼らしい。チュウさんは私の古い友人で、彼とはなぜだか馬が合う。 今回の調査ではマレーシア製の自分の新車を提供してくれるというが、 まさか四日間もこの乗用車でマレー半島を走破するとは夢にも思わなかった。

チュウさんのストック場で40cm大のゴールデン・アロワナを見せてもらった。 背中から腹にかけて黒ずんだ部分がなく、全身が黄金色に覆われ、鱗の光沢がさすがに美しい。 インドネシアのスーパーレッド・アロワナは飽きるほど見てきたが、 ゴールデンには一味違う美しさがあり、新鮮な魅力を感じる。

願わくば、この手でなんとかゴールデンを物にしたいとファイトがたぎってきた。チュウ さんとドクター・ローが「この時期はアロワナの産卵シーズンに少し早すぎるのではないか」と 懸念していることが気掛かりだったが、私のスケジュールの調整がつかなかったのだ。

ともあれ、この日の夕方までにペラク州のバガン・サライという村まで行って水産課の役人と会い、 アロワナが生息する川に入ることになっている。そろそろペナン名物のラッシュが始まりそ うだというので、車を飛ばして海峡の大橋を渡った。 この橋は四年前には日・韓などによる合同プロジェクトとして建造中だったが、 すっかり完成していた。東南アジアの中でもマレーシアは群を抜いて高い経済成長率を誇っており、 急速な変貌ぶりには驚かされるばかりで、 ゴムや錫といったこの国固有のプランテーション産業から近代的な工業国へと脱皮しつつある。

あたりがすっかり暗くなったころ、われわれの車は目的地のバガン・サライに到着した。通り が縁日のように賑わっている。屋台の焼きそばや揚げバナナが食欲を誘う。 懐かしいカーバイトの臭いが、過ぎ去りし少年時代の夜店を思い出させてくれて、 がらにもなく異国でちょっぴり感傷的な思いに浸ってしまう。

チョンが「ここの住人はほとんどマレー系だから……」と言外に注意してくれる。ネイティブ なマレー人は中国系マレー人と習慣や考え方が違うのだ。モスリム(イスラム教徒)特有の帽子 やベールを着用した人がほとんどで、この辺では日本人が珍しいのか、われわれはじろじろ見ら れている。

ドクター・ローが役人を探している間にわれわれは夜の食料や水の調達に出掛けた。計画では ボートで夜通し川を遡上してアロワナを探すことになっているからだ。

カーバイトの灯が昔懐かしい縁日の露店を思い出させる。バカン・サライ村にて

■カーバイトの灯が昔懐かしい縁日の露店を思い出させる。バカン・サライ村にて

アロワナとりのランブリー名人

タイピン市水産漁業局のンク氏の先導でサラマ村に着いたのは九時すぎだった。川沿いの狭い あぜ道を懐中電灯で照らしながら、村長のアウ・ワンビさんの家を探し出した。川に入るのは川 の実権を握っている村長の許可を得ることが必要なのだ。

アロワナとりの名人と評判の高いマレー人漁師ランブリーさんを紹介してもらったが、彼はシ ーズン中に3インチのアロワナを平均二十尾も収穫するという。 アル・ポンス川の水系には漁師が百人ほど住んでいるそうだが、 シーズン中のアロワナの捕獲数は一人当たり平均三~四尾というから、 ランブリーさんは桁違いの名手だといっても過言でない。 とすると、この水系では1シーズンに約四百尾のアロワナがとれる勘定になる。

グラミーなどの食用魚は1kg当たり2マレーシアドル(90円)にしかならないのに、 3インチのアロワナ一尾で八百マレーシアドルになるという。彼らの平均月収が八百マレーシアドルだから、 アロワナ一尾とれば一ヶ月分の稼ぎになるわけだ。 ランブリー名人の年収は一万六千マレーシアドル(七十二万円)というから、ここでは相当な高給になる。

ランブリー名人が子供時代の1950年代の半ばまでは、昼夜に関係なく、この付近の川でアロワ ナがいくらでもとれたという。当時は食用にしていたそうで、グリーンよりゴールデンのほうが 味がいいと言われていて、値段がやや高かったという。私が「なぜ、少なくなったのか」と問う と、最大の原因は水の汚染で、ほかの魚も減っているそうだ。公害汚染と開発が原因らしい。

二年ほど前からゴールデン・アロワナが観賞魚として高く売れるようになり、そのおかげで村人の生活がずいぶん楽になったという。 ある男がぐうぜん捕獲した親アロワナの口の中には、なんと七十尾もの子が入っていて、 これを売って大金を手に入れ、嫁とりをして立派な結婚式を挙げた、というアロワナ成金の話も囁かれている。 しかし、大部分の人は熱帯地特有のおおらかな性格のためか、大金が入ると派手に使ってしまうので、何も残らないとぼやいている。

私がランブリー名人に聞き出したアロワナに関するいくつかの話を披露しよう。

「アロワナの捕獲は政府の条令で原地人にしか許されておらず、シーズン中は多くの人がアロワナとりに精を出すが、 彼らの中で自主規制があり、成魚をとることは厳重に禁止されている。 ゴールデン・アロワナがとれる場所は、この水系とブキット・メラ湖およびその周辺の川の計三ヵ所だけで、 ほかは全部グリーン・アロワナである」とアロワナの生息地について名人が語ってくれた。

ゴールデン・アロワナがこの周辺の水系だけにしか生息していないとは初耳であった。 かつてわれわれがボルネオ島カリマンタンのカプアス川でスーパーレッド・アロワナを探索したとき、 その唯一の生息地は首狩族として有名なイバン族の住む集落のあるカプアス川上流700kmの場所に位置するメライ湖周辺で、 その他の地域はすべてグリーン・アロワナと言われたが、それと同じような状況であるらしい。

「なぜ、この周辺だけにゴールデン・アロワナが生息するのか」と聞くと、「詳しくはわから ないが、ほかの場所と水質が異なっているからではないか。 この川よりブキット・メラ湖産のゴールデンのほうが光沢があって美しいという評判だが、 やはり水質の差だと思う」と名人が答えてくれる。

太陽光線の強いアフリカなどの熱帯地方の人々は、メラニン色素を多く持っていて、肌の色が 黒くなる。一方、日光の乏しいスカンジナビア地方の人々は、メラニン色素が薄くて、肌の色が白い。 長期間の生活環境が遺伝因子に組み込まれ、両者の肌の色に差が生じたのだろうが、 アロワナの生息地でも環境差によって同じことが言えそうだ。

「アロワナは約二年間で成魚になるが、親は平均で1m、体重2kg前後で、川によって成長の度合いが異なっている。 産卵についてはまだ解明されていない点が多く、若い親は毎年産卵している と思うが、年をとるにつれて間隔が長くなり、三~四年に一回しか産卵しなくなる。口の中に保 育している卵の数は平均して七十前後だが、親が管理して無事に育てられる子はその約半分が限 界で、口内で育てている期間は約二週間だと思う。アロワナは夜間に浮上して餌を探すことでよ く知られているが、日中は水面下30~35cmほどの位置を移動しながら、自分の下で泳ぐ子を注意 深く見守っているが、この期間は獰猛なスネークヘッドといえどもアロワナの子を襲うことはな い。なぜなら親の反撃がすごいことを知っているからだ」と名人だけに子育てについても詳しい。

さらに「アロワナはペアでテリトリーを持っていて、メスはテリトリーから動かないが、オス は子が巣離れの時期になると、口に子を含んで約50kmの円周の中を約1kmに一尾ずつ口から放出 していくが、決して同じ場所に複数の子を出すことはない。これは子に競合せずに新しいテリト リーを与えるためで、リリースが終わったら、オスはメスのもとに帰ってくる」と不思議な習慣 を持つアロワナについての名人の興味深い話は尽きることがない。

同じことはボルネオのカプアス川の上流にあるメライ湖にも言えて、乾期に集まって子作りし て、雨期になるとジャングルに出てきて、子をリリースする点もよく似ている。人間より生物と して古い歴史を持つアロワナには人知の及ばない深い英知が宿っており、だからこそ長い年月を 生き抜いてきたのではなかろうか。

クワンタンのエキゾチックで雄大なイスラム教寺院

■クワンタンのエキゾチックで雄大なイスラム教寺院

 

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