text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)
+++ イリアン・ジャヤ/2 Vol.6 +++
「まだ見ぬ部族が潜む魔境(マンボラモ)を行く」
日本から「遠くて、そして遠い国」イリアンジャヤの魔境に日本人で初めて訪れる。いったいどんな冒険と出会いが待ち受けているのだろうか・・・。 |
大"フン"発の水で朝食とは
雨の中、朝のあわただしい一刻が始まった。トタン屋根からの雨垂れ水を飲料水用に水筒に受け止めたり、洗面に使ったりする。歯を磨く習慣が場違いのように思えて、なんだか滑稽な気がする。
■やっと雨も小降りになって体調も回復し、問題の朝食に舌鼓 |
■目的のレインボーも採集できてうれしそう |
船頭たちが水中にカスミ網を20mほど張ると、ナマズ、ティラピア、コイなどの朝食のおかずがすぐにかかってきた。私の腹ぐあいは8割がた回復している。雨の中でちょっと失礼して用足しすることにしてボートを降りると、水位が意外と浅くて膝頭の上までしかない。しかし、ボートから離れると急に深くなるので、やむなく船の近くで”立ちフン”することにした。雨の中、それも水の中での初体験だが、率直に言って爽快だ。
ボートに戻ると、船頭が魚を料理中で、湖の水を汲んで鍋に入れている。水上が「えらいこっちゃ、この水で料理してまっせ」とうろたえている。ちょっと気が引けたが、「沸かすんだから、あたりはせんだろう」と手前勝手な苦しい答弁をする。ところが水上はこの日から腹をこわしてしまい「社長が立ちフンした水で料理した魚を食べたせいや」と私のせいにしている。
持参した食糧をハルーンに少し分けてあげた。彼は飴玉一つ貰っただけで、言葉はわからないが、「どうもどうも、そんなに気を使わんでもよか」とばかりに、大袈裟なジェスチャーで感謝の気持ちを表現するので、かえってこちらが恐縮してしまう。お返しにハルーンが甘くておいしいサツマイモを一個くれた。
昨日は夕食抜きだったので、朝飯は取れたての魚と日本から持参した乾燥米と牛缶を大奮発して豪勢な朝食を用意した。ハイコたちにも牛缶を勧めるが、「ドイツ人は朝からビーフは食べない」とにべもなく断る。日本人なら「食べられるときになんでも食べておこう」と考えるのがふつうだが、彼らは決して生活スタイルを変えようとしない。すべてがワンパターン思考の人たちだ。
まるで白昼夢、奇妙なカヌーに遭遇
幸いにも雨が小降りになってきたので、再び出航し、さらに上流へと進んだが、一隻のカヌーにも出会わない。細い入江を見つけて遡上する途中、珍しく一軒の現地民の小屋を見つけた。人が住んでいる気配だ。ボルネオのカリマンタンの首狩族のイバン族が使うのと同じような一本の丸太に足を引っかける刻みを入れただけの梯子で、猿の木登りのようにはいかないので、登るのにさんざん苦労させられる。
■乏しい食材をわれわれに差し入れしてくれる。主食のサグーと魚の乾物 |
■ワニ捕りの道具。モリとワイヤーにつないだフロート |
すこぶる簡単なワニ取り用のモリと浮き一式が無造作にカヌーの中に置いてあった。どうやら、彼らもワニ取りで生計を立てているらしい。小屋の主人も親切な男で、焼いた干物と常食のサグーを差し出す。水上が好奇心から食べたそうな顔をしていたが、ハイコから「食べたら君は90パーセントの確率で下痢を起こして死んでしまう。干物は長いあいだ天井で乾かすので、身の中に蠅や蚊の卵がぎっちりくっついているはずだ」と言われて、さすがの水上もびびっていたが、船頭たちは平気で食べていた。欧米人や日本人の腸は免疫ができていないのだから、危ない、危ない。
第三ポイントのビラン湖に入ると、魚の大半がレインボーの種類で、10cm以上になると、とても美しい。このあと、船首を反転させてボートは下流に向かった。翌朝にはヘリが迎えにくることになっているので、なんとしても時間までに帰らなければならないからだ。
何時間走っただろうか、うとうとしていると、ハルーンに起こされた。指さす方向を見ると、カヌーが一隻近づいてくる。大人と子供が3、4人、それに犬が3、4匹と、大きな鳥が2羽乗っている。火食い鳥(エミュー)だ。とつぜん出会ったわれわれのボートにあっけをとられたのか、相手は身じろぎもせず、じいっーとこちらを見つめている。われわれも白昼夢を見ているような異様な気持でそのカヌーをじいっーと見つめていた。彼らにとってわれわれはおそらく初めて見る異邦人であったに違いない。
次の湖は入口が狭くてカヌーが入らないので、湖まで密林を徒歩で行くという。どこまで歩かされるかわからないので、小生は遠慮申し上げることにしたが、水上も珍しく「残りたい」と申し出たので、二人でボートに残ることにした。
ハイコたちがジャングルに消えるのを待ち兼ねたように、水上が泥の上に渡した幅30cmほどの渡り板を脱兎のごとく駆けのぼろうとする。板を踏み外すと腰まで泥にはまるので、彼の腰ベルトにつかまって私も登ろうとするが、私の手を振り切るようにしてジャングルの茂みに駆け込んだ。邪険な奴だと腹が立ったが、あとで彼から「腹ぐあいが悪くて、ほとんど限界でした。社長にベルトをつかまれでもしたら、それこそこらえようもなかったからで、すみませんでした」と大笑いになった。
■白昼夢のように突然現れた原住民のカヌー。エミュー(火食い鳥)から犬までの大移動だ |
ハイコたちが1時間ほどで戻ってきたが、まったく収穫がなかった様子だ。「行かなくてよかったね」と2人でにやり。