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KAMIHATA探検隊

虎(ハリマオ)の住む密林を横断

text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ 東南アジア/5 Vol.2 +++
「虎(ハリマオ)の住む密林を横断」

今回の探索行はスマトラ島を南から北まで縦断。 スマトラは虎が名物で、いまでもジャングルに二百頭ほど生息していると言われているが、とくにジャンビ周辺に多く生息しているそうだ。
虎は“ハリマオ”と呼ばれ、マレーの人々に畏敬の念を持たれていると聞いて、若いころ口ずさんでいた『マライのハリマオー』という軍歌を思い出した。


カショーロに似た珍魚を採集

朝から違う水系を探すものの、この水位ではどうにも希望が持てそうにない。 気が滅入るせいか、みんな黙りこくっている。船着場へ行くと、昨夜は薄暗くて見えなかったが、 案外と魚種は多そうで、現金なもので一転してみんなの元気が出てきた。 魚をとっていた人に近くの入江のような場所まで案内してもらって、 生簀箱を見せてもらうと、思いのほか数多くの魚が泳いでいた。

その名もかわいいチョコレート・グラミー

■その名もかわいいチョコレート・グラミー

午後からピジョン川という別の水系に挑戦した。ハリ川よりもうんと川幅が広く、 上流ではグリーン・アロワナがとれるそうだ。ボートをチャーターして、 本流を横切って対岸に渡り、そこからジャングルの支流へ入ることにした。 川岸ではカヌーに乗った漁師が魚をとっており、 クラウン・ローチやタイガー・ボティアなどが見られた。支流に入ると、 しだいに流れが穏やかになり、ラスボラの群れが水面に浮上して餌を探している様子がよく見える。

周囲はうっそうとしたジャングルで、猿が木の枝から枝に飛び移って「キャッキャッ」と騒いでいる。 昼食後、再び一時間ほどボートで水没のジャングルの中を走り、支流に分け入っていく。 川幅が急に狭くなって、砂地を見せる浅瀬もある。ボートから降りて、てんでに網を手に茂みに入っていった。

多種多様な美しい魚が群れている。なぜ野生の魚はこうも美しいのだろうか。 網に入った魚の輝くような光沢に思わずうっとり見惚れてしまう。 浅瀬に戻って足を見ると、知らない間に大きなヒルが足にべったりと吸いつき、血を吸って丸々ふくれている。 鈴木は木の枝から落ちてきた蟻にあちこちを噛まれて「痛い、痛い」と騒いでいる。

水没したジャングルをくぐり抜けて、船着場に戻ってきたとき、川の向こうに太陽が沈みかけていた。 真っ赤な太陽と紺色の雲との絶妙な色合いのコントラストが素晴らしい。 熱帯地方特有のダイナミックな落日風景を展開する感激の一瞬である。

船着場でアマゾンに生息する牛の舌をかみ切るという凶暴なカショーロそっくりの奇妙な魚を見つけた。銀色に輝いて、鋭い頭部と特徴的な胸鰭がカショーロそっくりだが、牙と歯はない。別種みたいだ。

クラウン・ローチの採集を専門とする漁師の家に招待されたが、 部屋に置かれた水槽に美しいグリーン・アロワナが泳いでいた。 スーパーレッド・アロワナばかり見なれているわれわれには、グリーンは新鮮で、 野性味にあふれ、魅力的であった。どうやら、この川にはこの種のアロワナが生息しているらしい。

珍種発見。不思議な顔した魚。パーチの一種か?アマゾンのカショーロによく似ているが、鋭い歯がない。日本に帰って調べたが、名前は不明のままだ

■珍種発見。不思議な顔した魚。パーチの一種か?アマゾンのカショーロによく似ているが、鋭い歯がない。日本に帰って調べたが、名前は不明のままだ

日・蘭激戦の地パレンバン

午前中は郊外のさほど大きくないシピン湖に行く。 湖畔のあちこちには四つ手網を設置したのどかな風景があった。 対岸に渡るカヌーは小さくて、三人が限界だ。姉さんかぶりのお姉ちゃんが懸命に漕いでくれる。

野生のクラウン・ローチはこんなにも美しい

■野生のクラウン・ローチはこんなにも美しい

水は飴色で、深くはなさそうだが、 ジョンが「一見して平和そうな湖ですが、毎年のように人が溺れ死ぬので、 現地の人は祟りがあると気味悪がってます」と説明してくれる。 魚は格別珍しいものはいないが、ウォーター・レタスの鮮やかな緑の大群生が見事だ。

午後から車でパレンバンに向けて一路ジャングルの中を南下することになった。 インドネシアでは日常茶飯事のことだが、パレンバン行きの飛行便が急にキャンセルになったからだ。 六時間近い長いドライブは決して楽でなかろうと覚悟したが、道路は舗装されており、対向車が皆無に近く、ドライブは快適だ。 ドライバーが「この辺ではときどき虎を見かける」と言うが、両側には虎が出ても不思議でなさそうなジャングルがうっそうと続いている。 途中、車に跳ねられた猿が三匹、無残な姿で道に転がっていた。道を横断中に親子ではねられたらしい。

夕刻、へとへとになってパレンバンに着いた。ジャンビとは桁違いに立派な町である。 パレンバンは私のような戦中派には忘れられない地である。 第二次世界大戦の初期、有数の石油産地であったパレンバンは、 統治国のオランダ軍による採油設備の破壊を防ぐため、日本軍のパラシュート部隊が空から奇襲して成功した町でもある。 そのとき作られた『空の神兵』という歌は、大戦中の最大傑作としていまなお歌い継がれている。

五十年前にここで日本軍とオランダ軍との間に激しい攻防戦が行なわれたかと思うと、ひとしお感慨無量になる。 市内を流れるムシ川に架かる立派なアーチ型の橋は日本人によって作られたもので、いまも“日本人橋”と呼ばれて人々から親しまれている

吸盤のようなキッシング・グラミーの口

■吸盤のようなキッシング・グラミーの口

 

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