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KAMIHATA探検隊

カミハタ探検隊 in INDONESIA 「人食人種(アスマット)とカンガルーが暮らすジャングル」
text & photo/神畑重三 協力/神畑養魚(株)

+++ イリアン・ジャヤ/3 Vol.2 +++

「人食人種(アスマット)とカンガルーが暮らすジャングル」

日本から「遠くて、そして遠い国」イリアンジャヤの魔境に日本人で初めて訪れる。いったいどんな冒険と出会いが待ち受けているのだろうか・・・。


笑いカワセミのいるアロワナファーム

薄暗くなってから、車は小さな村に入って駐在所の前に停まった。人口500人ほどのエランブという小村だ。長いこと待たされて、やっとポリスが出てきた。ここに来る途中、素足で半パンツの逞しい男が村の入り口でジョギングしている姿を見かけたが、その彼がこの村の警察署長だった。日のあるうちにテントを張りたいと気がせくが、人の気を知ってか知らずか、書類を悠長にチェックしている。しかし、この署長は顔に似合わず親切な人物らしく、「川辺にテントを張る適当な場所が見つからなければ、ここを使ってもいいよ」と言ってくれる。奥に鉄格子の留置場らしいものが見えるが、どうやら留置場に泊まれといっているらしい。「なにごとも経験だ、留置場に一晩泊まるのも悪くないなぁ」と考えているうち書類のOKが出た。もう周囲は漆黒の暗闇だ。

村に入って、漁師の家で準備に取りかかろうとしたら、ジョンが「村の軍警と村長の許可がいるんで、いっしょに来てくれ」と言う。「またかいな」と、うんざりする。「いい加減にしてくれ」と、ぐちりたくもなる。

スワンプ(湿地帯)の中に人工的な水路が作られている

■スワンプ(湿地帯)の中に人工的な水路が作られている

何年も風呂に入らぬという(マラリア予防のため)彼らの体臭に辟易しながら、でもニッコリ笑って

■何年も風呂に入らぬという(マラリア予防のため)彼らの体臭に辟易しながら、でもニッコリ笑って

軍警と自称する男は私服で、目つきがよろしくない。 少なくとも好意的な表情ではない。部屋には色の黒い現地民が十人ほどたむろして、暗闇の中で目ばかりぎょろぎょろ光らせている。部屋の隅に夜店の金魚すくいに使うような粗末な木の台が1つ置いてある。これはアロワナをストックするためにビニールを敷いて水を溜めただけの仮設水槽である。「写真を撮らせてくれ」と頼むが、即座に拒否されたので、にこにこしながら「あなたといっしょに記念写真を撮りたい」と告げると、態度がころっと変わって友好的になった。こうしたコツが私にも自然と身についてきたようだ。

村長の家の庭にオーストラリアにしか生息しないクカバラという珍しい鳥がいた。カワセミの一種で、鳴き声が人間の笑い声によく似ているので、別名“笑い鳥”とも呼ばれている。漁師がナシゴレンとカレーで夕食を準備してくれた。私は毎日同じものばかりで、いささか食傷気味だが、若松は私の残りまでぺろりとたいらげて、まだ足りなそうな顔をしている。

からだじゅうが汗とほこりでべとべとなので、井戸水を汲もうとするが、のぞいてみると10m以上もある深井戸の底は空っぽで、水が一滴もない。いまは乾期だから、渇水でどうしようもないのだそうだ。水のことでは過去に下痢してどえらい目に遭っているので、夕食の調理水をどこから調達してきたのかそれが気になった。

庭には例の金魚すくいに使うような仮設水槽があって、その中にアロワナが20尾ほどとイエローバンドが数尾泳いでいた。調子の悪いアロワナが1尾いたが、取り上げて今夜の夕食に食べてしまうのだそうだ。

マロー川で念願のアロワナを捕獲

腹ごしらえができたので、いよいよ出発だ。夜は冷えるらしいので、厚手のジャンパーや長靴に着替えてマロー川へと向かう。周囲は鼻をつままれてもわからないほどの真っ暗闇である。地形はさっぱりわからない。300mほどある河原を川岸まで車で行くが、モトクロスのような状態で、背丈ほどもある雑草が生い茂り、道らしきものはない。車が穴に突っ込んで首の骨が折れるのではないかと心配するほどの悪路だ。

前方にはメラウケからダンプで運んできたボートの灯らしき明かりがちらちら見え、そこでは漁師たちが アロワナ採集の網を用意して待っていた。漆黒の闇の中、あちこちで野火がぼうーっと燃えて、狐火のようで気味が悪い。

アロワナとりに期待で胸がふくらむ

■アロワナとりに期待で胸がふくらむ

アロワナとりに雇った漁師の面々みな不敵な面構え

■アロワナとりに雇った漁師の面々みな不敵な面構え

長年の夢であったアロワナ採集に成功

■長年の夢であったアロワナ採集に成功

ジョンが「ここでテントを張ろう」と主張するが、この草むらの中で懐中電灯ひとつを頼りにテントを張るのは難しいし、もし部品の一つでも落としたら見つけだすのは容易でない。私は村に帰って、ポリスの留置場に入りたいと主張するが、ジョンは「何か事が起きたら、すぐに対応できないので、離れた場所は危険だ」と強く反対する。仕方なく石ころだらけの漁師の庭先にテントを張り終えて、すぐに川へ引き返してボートに乗り込んだ。

ボートはFRP製の軽い船だが、10人は乗れる大型だ。上流を目指してゆっくりと遡上を続ける。夜のジャングルは静寂そのもので、ときどき「ギャッ!」とか「キャッ!」とか獣の声がするだけで、静まりかえっている。二人の漁師が船首と船尾に別れて仁王立ちになって、網を持って身構え、ライトでなめるように水面を照らしながら目配りしている。ライトの光を受けると、アロワナの目はルビーのように真っ赤に光るのですぐにそれとわかるという。見つけたら、長柄の網で素早くすくいあげるのだ。しかし、われわれのボートは大型なので、アロワナに気づかれずに近寄るのは難しい。ボルネオのカリマンタンに生息するアロワナと違って、とても逃げ足が速く、せっかく見つけても何度も取り逃がした。

船のエンジンを止めてしまったので、水面を掻く櫂の音だけが聞こえている。みな緊張しているのか、話し声ひとつしない。とつぜん船先の漁師が身構えたと思ったら、竿が一閃して水中に突っ込まれた。下からすくい上げるという戦法を変えて、上から押さえたのだ。ライトに照らされた網の中にルビー色の目玉がきらきら光っている。「とうとう、やったぞ!」

思えば、ボルネオのカプアス川やマレーシア北部のブキメラ湖、タイとの国境に近い軍用湖、とアロワナを追う旅を続け、どの水域でも夜が明けるまで何度もトライしてきたが、目的を果たせずに終わっていた。いま、ついに本望を達成したのだ!嬉しいというより、肩の荷が降りたようで、ほっとする。

緊張がとけたのか、船内が急に騒がしくなった。ジョンとアントンと私の三人ががっちり手を握り合って成功を祝う。夜空を見上げると、満天の星が空に一面に隙き間なく、ぎっしり詰まっている。こんなたくさんの星を見るのは初めてだ。ときおり、すーっと尾を引いて大きな流星が流れていく。この幾兆万ともしれない天体の中で、もし生物が住む天体が地球だけだとすると、それだけで人間はとてつもない幸運を与えられたことになる。生きることの尊さを改めて考えさせられる神秘的な星空であった。

途中で一隻のカヌーに出会った。彼らは3尾もとっている。われわれのボートは彼らのあとについていたらしく、道理でなかなかとれなかったわけだ。魚をこちらに移して酸素詰めした。

夜中になると、さすがに肌寒い。へとへとに疲れて、テントに帰りついたのは夜中の2時過ぎだった。からだじゅうが汗と油、それに蚊よけスプレーでぎとぎとしている。でも、テントの中では手足を伸ばして休めるだけでも天国だ。うとうとしていたら、頭上からとつぜん「コケコッコー」というニワトリのとてつもない大きな鳴き声がして、はね起きた。ニワトリが木の枝の高い所に止まって鳴くのだ。

熱帯の強い日差しがテントの中にまで差し込んでくる。きょうもまた猛暑のようだ。川や沼で魚を捕獲しながらメラウケに向かう。途中、数カ所ある検問所の兵士たちがわれわれを覚えていて、こんどはすこぶる友好的で「コーヒーを入れるから休んでいけ」などと勧めたりする。詰所の横の茅葺きの休憩所で横になって目を閉じていると、そよ風が顔をやさしくなでるので、ついうとうとなる。目的のアロワナは取れたし、このうえなくハッピイな気分だ。

町に帰ってからクゥオの希望でヘビやトカゲのコレクターの家に立ち寄った。エリマキトカゲやモモンガなど、ニューギニア特産の爬虫類が数多くストックされているが、オーストラリア大陸のそれとほとんど同じな点が興味深い。現地民からジョンが聞いた話では、ここは4万年前までオーストラリア大陸と地続きだったそうだ。彼らは「自分たちの遠い祖先は南の大陸からやってきた。昔はこの島と大陸は浅い海でつながっていて、洞窟もたくさんあって、それを足がかりに往来していたが、いつのころからか海がどんどん深くなって、大陸へ帰ることができなくなり、この島に残った」という民族の言い伝えを話してくれた。

■色つきの蛇は毒をもつというが? ■指を食いちぎるほど強い歯とアゴを持つ鳥
■色つきの蛇は毒をもつというが? ■指を食いちぎるほど強い歯とアゴを持つ鳥

オーストラリアの現地民アボリジニとニューギニア人は顔つきも体格も酷似しているので、おそらく同じ人種であろうことは容易に察しがつく。とくに低地の湿地帯に住む人食人種のアスマット族はアボリジニとそっくりだ。あすはその伝説の部族アスマットの住むアガツに行くことになっている。

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